臨死最恍惚微笑-ニアデス・ハピネス- 5-1.

5-1.臨死最恍惚微笑-ニアデス・ハピネス-

だけど目の前で、彼女の腕から血と血から変容した何かが溢れ出ているのを見ると、自然とその言葉が出てしまった。彼女の身体は、ビクビクと痙攣していた。

 黄色い血が、その縁から何かが溶け込む様に青く染まっていく。臨死出血流黄疸を経て『臨青死紋様縞』が彼女の皮膚に広がる。花嫁が死を迎えようとしている。僕は彼女の顔を観る。

『ありがとう。』

 勿論、彼女は声を出さない。だが、僕にはそう言っているように思えた。花嫁が……花嫁となった時に最初に発する言葉。それを一度迎える死に際して青血の花嫁は、その表情に湛えるという。それはもしかしたら、この状況にならないと現れないモノなのかも知れない。それを観ることができる人は、本当に限られているのかも知れない。この表情は仏教文化のある国では『菩薩』と称され、キリスト教圏では『聖母』と呼ばれるらしい。医学、科学の用語としては『臨死最恍惚微笑』と記され、『ニアデス・ハピネス』と読ませている。それを観ることができる花婿は、もしかしたら幸せなのかもしれない。

 チェーン・ソウを握る手に、もう一度、力を込め、覚悟を決める。今から、この花嫁を一六五分割にしなければならない。分割が済めば速やかに焼却しないといけない。まるで剣道の上段の構えのように、僕はふらつきながらチェーン・ソウを振り上げた。ドッドッド……という振動が今度は天井に向かう。

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